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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁
「す、す、掏摸にやられたッ」
「えっ、掏摸?」
「今、瀬戸物町で、四十両の勘定をとってきたばかりなンだ。それがねえ! 財布ぐるみだ! 財布ぐるみ掏られてしまった」
血眼になって騒ぎだした。
誰だ、誰だ、というふうに、群衆の目が、お互いにウサン臭い目つきをし合う。掏られた男は、狂気のようになって番屋へ訴えに駈けだすと、おせッかいな人間が、それ、向うへ大股で行った法被が怪しいの、今おれの後ろに立っていた男の人相が悪かったのと、その間にもワイワイと騒ぎ立っていた。
お綱は、いつのまにか、河岸通りを右へそれて、金座後藤の淋しい裏を歩いていた。ずいぶん澄ましたものである。
ちょっとあたりを見廻して、袂の八ツ口から出したのは、商人持ちの革財布、中身を抜いて、
「しようがありやしない――、こんな端た――」
財布の殻を、ぽんと、河の中へ投げ捨てた。そして、少しじれ気味に、
「ああ、もう少し、まとまった金が手に入らないかしら? そしたら、これを最後に、スリの足をきれいに洗って」
いつもならば、同じ場所で一日に、二度と仕事はしないものを、しきりにあせっているお綱は、また金座屋敷の長い塀に添って、本町の問屋町を、軒づたいに歩きだした。