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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁
やがて出てきた。
前ともつかず、後ろともつかずに、お綱の姿がからんでゆく。
刀屋の店にいた間も、眉深にかぶっている編笠をとらないので、その面ざしはうかがえぬが、一見、丈高く肩幅広く、草履をすって外輪に歩いてゆく足どりなど、どうも、心得のある武士らしく思われる。年はザット四十前後か、衣服大小も立派、ただちょっと異なことには、御府内だというのに、緞子の野袴をはいている。
野袴は、野がけ支度、または旅中の物である。主持ちの侍が市内で裾べりの旅袴をはいている筈がない。では、浪人かというに浪人ふうでもなし、また旅の途中という様子もない。
しかも、人品賤しからず、という風格。
なんだろう。この侍は?
密かに、こんな細かい観察をしながら、お綱は、間髪の隙を心に計っていた。
しかし、容易にその機会がなかった。編笠の姿は、どこ吹く風かという態度で、石町から裏道へそれ、やがて、呉服橋をこえて、丸の内へ入ってゆく。
はてな?
この橋から向うは、江戸城の外濠、大手門、桔梗門、日暮門、それを取り巻く家屋敷というものも、およそは皆大名の邸宅で、普通の住居はない筈だが、あの侍、一体どこへ帰るのだろう。