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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁
実は、その獅子舞の姉弟のことは、常に家内が不愍がって、詳しいことを知っているので尋ねてきた。まことに気の毒ではあり甥の罪も償わねばならぬ、なんと、孤児となったお三輪と乙吉を、自分の家にくれたと思って、養育させてくれまいか。
思いがけない相談であった。
長屋の者は、聞くと共に、嬉し涙にくれてしまう。
お綱にも、この場合、二人のために、もとより異議のない話である。なおもう一人、廓にいる妹の身は、この間の金の余りで、充分始末がつくだろうと、それも心安かった。
「では、皆さん」
お綱は一同へ声低く腰をかがめて、
「お言葉に甘えて、後々のことは……」
ソッと、別れを告げたが、その侍には、わざと姉と名乗らなかった。そして、ただ心のうちで、浮世のドン底に棲む人々の美しい心を伏し拝みながら、桐油紙ぐるみの脇差を袖にかかえ、万吉と一緒にその路次から忍び忍びに歩きだした。
大慈大悲閣
ひとりになった。
もう親のない一人ぽッち。
女掏摸という兇状をもった姉は、あの妹弟たちにもない方がいい。ただ、どうぞ、倖せであっておくれ、いい芽をまッすぐに育っておくれ……。
お綱は祈りながら、そッと頭巾の端で目を抑えた――。