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さんごくし
三国志
吉川 英治
Read 三国志 (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 161,356 characters · 323 screens
そう考えつくと、彼は、にわかに道をかえて、襄陽の西郊へ廻って行った。
臥龍の岡は、やがて彼方に見えてくる。龍が寝ているような岡というのでその名がある。
徐庶の馬は、やがてそこの岡をのぼって行く。久しく無沙汰していたので、そこらの木々も石もみな旧友の如くなつかしく見える。
折から晩秋なので、満山は紅葉していた。めったに訪う人もない孔明の家の屋根は、落葉の中に埋まっていた。門前に馬をおりて、徐庶はその柴門を叩く。訪れの声をかける――。
が、園内は寂として、木の葉の落ちる音ばかりだ。
しばらくたたずんでいると、童子の歌う声がする。
蒼天は円蓋の如し
陸地、碁局に似たり
世人黒白して分れ
往来に栄辱を争う
「おうい、童子。ここを開けてくれ。先生はいらっしゃるか。――わしだよ。徐庶が来たと取次いでくれ」
外の客は、しきりと訪れていたが、童子はなお気づかないものの如く、
栄うる者は自ら安々
辱めらるる者は定めて碌々
南陽に隠君有り
高眠臥して足らず
と、歌いながら、梢の鳥の巣を仰いでいた。
すると、どこやらで、童子童子と呼ぶ声がして、門外に客のあることを教えていた。
「え。誰か来たのかい」