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さんごくし
三国志
吉川 英治
Read 三国志 (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 161,356 characters · 323 screens
二
曹操の八卦陣は、三方からもみたてられて、ついに五、六十里も退却してしまった。
「幸先はよいぞ」
その夜、玄徳がよろこびを見せると、関羽は首を振って云った。
「計の多い曹操のことです。まだまだ歓ぶところにはゆきません」
「いや、彼の退却は、長途の疲れを、無理してきたためで、計ではなかろう」
「では、試みに、趙雲を出して、挑んでごらんなさい」
次の日、趙雲が進んで、挑戦してみたが、曹操の陣は、唖の如く、鳴りをしずめたきり動かない。
――七日、十日と過ぎても、一向戦意を示さなかった。
二
「はて。――曹操の備えとしてはいつにない守勢だ。彼はそんな消極的な戦法を好む性格ではないが?」
ひとり関羽は怪しんでいた。曹操を知るもの、関羽以上の者はない。
果たせるかな、変があらわれた。
「汝南から前線へ、兵糧の運輸中都の隊は、道にて曹操の伏勢に囲まれ、全滅の危うきに瀕しています!」と、いう後方からの飛報だった。
すると、また、次の早馬の伝令には、
「――強力な敵軍が、遠く迂回してきて、汝南の城へ急迫し、留守の守りは、苦戦に陥っている!」と、ある。
玄徳は、色を失って、
「留守の城には、われを始め、人々の妻子もおること」