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さんごくし
三国志
吉川 英治
Read 三国志 (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 161,356 characters · 323 screens
一日もはやく孔明を尋ね、親しくその眉目に接したいと、左右の人々へくり返して喞った。
一日、ようやく閑を得たので、玄徳は、関羽、張飛のほか、従者もわずか従え、行装も質素に、諸事美々しからぬを旨として、隆中へおもむいた。
静かな冬日和だった。
道すがら田園の風景を愛で、恵まれた閑日を吟愛し、ようやく郊外の村道を幾里か歩いてゆくと、冬田の畦や、菜園のほとりで、百姓の男女が平和にうたっていた。
蒼天は円い、まん円い
地上は狭い、碁盤の目のように。
世間はちょうど、黒い石、白い石
栄辱を争い、往来して戦う。
さかえる者は、安々たり
敗るるものは、碌々とあえぐ。
ここ南陽はべつの天地
高眠して臥すは誰ぞ
誰ぞ、臥してまだ足らない
顔をしているのは。
玄徳は馬をとめて、試みに、一農夫にたずねてみた。その謡は、誰の作かと。
「はい、臥龍先生の謡でがす」と、百姓はすぐ答えた。
三
「先生の作と申すか」
「へい。先生の作った謡じゃと申しまする」
「その臥龍先生のお住居は、どの辺にあたるか」
「あれに見える山の南の、帯のような岡を、臥龍の岡と申しますだ。そこから少し低いところに、一叢の林があって、林の中に、柴の門、茅葺の廬がありますだよ」