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さんごくし
三国志
吉川 英治
Read 三国志 (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 161,356 characters · 323 screens
「墻の内へ聞えるではないか。静かに、もうしばらく、容子を見ていろ」
「いや、聞えたってかまわん。あの似非君子が、起きるか起きないか、試しに、この家へ火をつけてみるんだ」
「ばかな真似をするな」
「いいよ。離せ」
「また悪い癖を出すか。さような無茶をすると、貴様の髯に火をつけるぞ」
ようやくなだめているうちにも、書窓の廂に、陽は遅々と傾きかけながら、堂上の人の眠りは、いつさめるとも見えなかった。
「…………」
ふと、孔明は寝がえりをうった。
起きるかと見ていると、また、そのまま、壁のほうへ向って、昏々と眠ってしまう。
童子がそばへ寄って、呼び起そうとするのを、玄徳は階下から、黙って、首を振ってみせた。
そしてまた、半刻ほど経った。
すると、寝ていた人は、ようやく眼をさまし、身を起しながら、低声微吟して曰うらく、
大夢誰かまず覚む
平生我れ自ら知る
草堂に春睡足って
窓外に日は遅々たり
吟じおわると、孔明は、身をひるがえして、几席を離れた。
「童子、童子」
「はい」
「たれか、客が見えたのではないか。そこらに人の気はいがするが」
「お見えです、劉皇叔――新野の将軍が、もう久しいこと、階下にたって、お待ちになっておられます」