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さんごくし
三国志
吉川 英治
Read 三国志 (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 161,356 characters · 323 screens
三
「……劉皇叔が」
孔明は切れの長い眼を、しずかに玄徳のほうへ向けた。
三
「なんで早く告げなかったか」
孔明は、童子にいうと、つと、後堂へ入って行った。口をそそぎ、髪をなで、なお、衣服や冠もあらためて、ふたたび出てくると、
「失礼しました」と、謹んで、客を迎え、なおこういって詫びた。
「一睡のうちに、かかる神雲が、茅屋の廂下に降りていようなどとは、夢にもおぼえず、まことに、無礼な態をお目にかけました。どうか、悪しからず」
玄徳は、たえず微笑をもって、悠揚と、座につきながら、
「なんの、神雲は、この家に常にただようもの。わたくしは、漢室の鄙徒、郡の愚夫。まあ、そんな者でしかありません。先生の大名は、耳に久しく、先生の神韻縹渺たるおすがたには、今日、初めて接する者です。どうかこの後は、よろしくご示教を」
「ご謙遜でいたみ入る。自分こそ、南陽の一田夫。わけて、かくの如く、至って懶惰な人間です。あとで、あいそをお尽かしにならないように」
賓主は、座をわかって、至極、打ちとけた容子である。そこへ、童子が、茶を献じる。
孔明は、茶をすすりながら、
「旧冬、雪の日に、お遺しあったご書簡を見て、恐縮しました。