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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

Read 剣難女難 (けんなんじょなん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 243,807 characters · 482 screens

Aozora Bunko

六

すると、彼方に静かな灯影を見せていた二棟つづきの離亭。その一方の障子がスーッと開いて、銀のような総髪白髯の一人の老人が、

「おい、お若い侍、ちょっと用があるから待ちなせい」

と錆を含んだ声を投げた。新九郎は振り顧って血刀を袴で拭いながら、

「用があると云われるのは拙者のことか」

「そうだ」

銀の総髪は、やおら縁端へ出て来て庭下駄を突っかけ、黄金鏤めの太刀を杖にして腰掛ける。その間に、老人と同席していた数名の若侍が、バラバラと飛んで来て新九郎を彼の前に引き据えた。

六

「若いの。お主の名から聞こうではないか」

奇怪な老翁は怖ろしい横柄な言葉づかい。新九郎は、むッとした。金井一角を見事に斬った自信力は、かなり彼の意気を強くしている。

「拙者の名を問うなら、まず其許の名から承わろう」

と昂然と云ってのけた。

「ふふん……」

銀の髯は小憎い笑いを洩らして、

「聞かしてやろう。俺は赤坂氷川下に巣をくってる、深見重左衛門、この髯を異名にして、髯の重左ともいう男だ。青二才、てめえはなんと吐かす武士だ」

「春日新九郎と申す者じゃ。したが、何の理由があって、腕ずくでお止めなされた」