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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

Read 剣難女難 (けんなんじょなん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 243,807 characters · 482 screens

Aozora Bunko

三

由良の伝吉はまた別に、いつの間にか認めておいた一封を出して、新九郎に手渡した。

宛人は、江戸薬研堀、生不動与兵衛様。

花の大江戸で、いま売り出しの名は、当時、関西にまで響いている生不動、伝吉が情を明かして、春日新九郎の一身を頼んだ添え状。

腰には国俊の逸作、ふところへはその一通を納めて、江戸表へ指して立つ春日新九郎と、千浪を連れた伝吉とは、間もなく、亀岡の城下端れで、西と東へ、名残りのつきぬ袖を別った――

三

大きく巡る歳月の流れは目立たず、ここに、いつか二年の春秋が流れた。そして、次に迎えられてきた世の中は承応三年。

初鰹も過ぎ、時鳥にも耳飽きて、袷を脱いだ江戸の夏は、涼み提灯の明りに、大川ばたから色めき立って、日が暮れると一緒に、水へ水へと慕って出る人がおびただしい。

「じゃ船へ入るものはこれだけかい。何も他に忘れ物はあるめえな利助」

「大丈夫、酒も料理の重箱も、すッかり行った筈だ」

「よしきた。じゃ親分、船を突っ放しますぜ」

涼みごしらえの山一丸で、一人の男がこう云いながら、舳の繋い綱を解きかけていると、

「待て、まだ肝腎な者が来ねえじゃねえか」

と胴の間の簾腰から、姿を出した者がある。