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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
いくら
(憎め、殺せ、刺せ、悪人だから)
と、いわれ、悪人だと思ってみても、毎日やさしくしてくれ、可愛がってくれる人を、殺す気にはなれなかった。然し、父が殺され、お家が危い以上、自分のそうした感じを捨てて、命じられた通りに刺し殺すより外に、小娘の深雪としては、考えようも、しようもなかった。
女中達は、次の間で、二人のところへ持って行くべき、茶と、菓子とを備えていた。深雪は
(自分さえ死ぬつもりなら――)
と、思った。
(死んだ方がいい)
とも、思った。そして
「妾が持って参りましょう」
と、菓子台へ手をかけた。
梅野が、茶をもって先に立った。深雪は、心を、手を顫わしながら、少し、顔色を、蒼白めさせて、菓子台をもって、その後方からつづいた。梅野の前へ行く女中が、襖をつつましく開けると、お由羅と調所とが、ちらっと、こっちを見た。二人とも、引締った顔をしていた。梅野が、茶を調所へ差出し、深雪が、菓子を置くと
「深雪、話がある。梅野は、下りゃ」
と、お由羅がいった。深雪は、俯向いて手をついて、懐の懐剣の紐の解いてあるのを、見られまいとした。
「お前、隠しているのではあるまいのう」