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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

綱手は、袋持など、何を云っても、何をしてもいいと思っていた。

(でも、月丸様は、自分の素性をかくして、妾の素性を知っていなさるのに――)

と、思うと、叡山の夜が、月丸の深い巧計から出たようにも思えた。然し、綱手は、自分で、それを、打消した。そして

(仮令、そうであるにしても――妾には、月丸様が、憎めない。仇敵とは、仇敵のお息子とは思えない)

と、思った。

「飾るところなく、申せば――これは、某一存の推察でござるが、百城と、お身と、何か、お係り合いがござらぬか?」

綱手は、考え込んでいたが、百城という名に、はっとして、心を澄ますと、係り合いがないか、と聞かれて

「係り合いとは?」

「さ、それは、いろいろとあって、申せることも申せないこともござるが――」

「さあ――」

「某の無礼を、お咎めなければ申そうが」

「いいえ、咎めるの、何んのと――」

「では――」

と、いって、袋持は、じっと、綱手の眼の色を見ながら

「約束事でも、あるか、無いか――したか、せぬか」

綱手は、一寸、胸を、轟かしたが、もう、袋持も、邸も、女中頭も、兵太夫も――それから、世の中さえ、怖ろしくはなかった。