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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens

Aozora Bunko

と下の句をつけ、共に大笑いするといった風な仲にすぎないのであった。

だが今夜はすこし兼好も勝手がちがって、どうも出鼻がまずかった。

助けられてこれへ来た負目もあり、一別いらい、こよい久々で見た道誉は、さすが陣中の人らしく、うかとは、“肴”にもできないような惧れが多少兼好にもしていたのである。

が、道誉は自分も窮屈らしいその腹巻すがたを説明して、

「こうしていても、いつ軍務のため、表ノ間へ立つかもしれぬし、真夜半、六波羅へ馬を飛ばすなども、再三なのでな」

と、こんな一刻が、せめて陣中での鬱さ晴らしなのだといわぬばかりに、よく飲むし、また相手へも、

「飲め、飲め」

と、しきりにすすめた。

座には、侍はいず、女ばかりが三人も酌していた。遊女ともみえず、侍女のようでもない。

「……ははあ」

兼好には頷かれた。

先夜自分が二条の辺で、兵の狼藉から救ってやった女性なども、この一例に入るであろう。――あの晩の“女狩り”もじつは兵らの欲望でなく、女を攫ッて来いと命じたのは、案外、彼らの主君、長崎殿自身であったのかもしれない。

むかし、木曾殿の兵が、平家に代って都入りしたときも、都の女は、影をひそめたそうである。