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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens
青い痣
ひとまず京へ帰れ。京へ引き揚げようわい」
たしかに、このこと以来、公綱の一ト面目は都でもみとめられた。彼が欲したほどな武名でもないが、彼の存在だけはこの一戦でみな知った。
青い痣
こんどに限らず、いつも旅行癖にまかせて出ると帰りも忘れるらしい兼好法師が、ひょっこり、その旅疲れを吉田山のわが庵へ見せたのは六月の初めであった。
「命松。いま帰ったよ」
「あ、お帰んなさい。ああまっ黒け。また日に焦けましたね、お師匠さんは」
「おまえは、なにしてた?」
「おるす中は、毎日書を読んだりお手習いしてました」
「ははは、それだけでもあるまい。川狩の網がここに見える」
「オヤ、いけねえ」
「殺生だけはおよし」
「はい」
「なにして遊んでもいいけれどな」
「だけど、お師匠さんがお魚を食べるのを、見たことだってありますよ」
「魚を漁って、生業としている人もあるんだから、それはいい。ひとつの慈悲だ」
「へえ?」
「雀も、達者か」
「ええ、あいかわらず」
「見えんじゃないか」
「奥にいます。この頃、わたしよりも、べつな人に馴れちゃったんです。ちっとも私の方へは来ないんです」
「べつな人?」
わらじの緒を解き、足など洗いながら、兼好は片手を上がりがまちについて、台所の方の小部屋を振り向いた。