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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens
絶海
ひとしく、後醍醐も輿を出て、御覧になったが、凝視……そのままで何も仰っしゃるところはなかった。
ただ。臆測すれば。
ひょっとしたら後醍醐は、その筆蹟によって、或る肉親の一人に、思い当っておられたかもわからない。
「…………」
その間、ほの暗い花の木蔭に息をこらしていた大覚ノ宮は、なつかしさやら、なさけなさやらで、つい涙をつつみ、帝のお顔もしかと窺いきれぬまに、はや列はまたゆるやかに流れはじめていたのだった。
さるにても、わからぬのは道誉の心だ。
「高徳、そちはどう思うの?」
大覚ノ宮は語り終った。
そしてこの日、この二人も、やがて、院ノ庄を去って、もとの備前国へ帰って行った。
絶海
院ノ庄から西へ三日路で、帝駕は、難所の四十曲峠を越えていた。
やっと伯耆ノ国に入る。
日野川の上流に沿い、日ならず、出雲街道は車尾村に出る。そこで一日、ご駐輦の後、米子から出雲の安来をすぎ、さらに船で美保ノ関まで渡られた。
「ああ、ここは早や」
外洋の風は荒かった。地蔵岬の一端に立たれて、帝はうたた、お眼をそばめる。
さもこそは
月日も知らぬ
我れならめ
衣更へせし
今日にやはあらむ