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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens

Aozora Bunko

十目十指

鎌倉へ下って、高時の前に出さえすれば、高時は掌中の物だと思う。ご機嫌をとりむすび、あわせて、どんな嫌疑も解いてみせる自信があった。

「法師。……そんなわけで、またいつ都へ出るか、次の折はわからん。達者ですごせよ」

わざわざ、吉田山から呼んでおいた兼好法師へ、彼はいろんな物を立ちぎわの布施に贈った。銀子、布、茶、料紙、穀類など、持ちきれないほどなものを、家来を付けて、持たせて帰した。

彼自身が、京を立ったのも、その日であった。

言いおくれたが、彼の下向は、べつに重大な一ト役をそのさい申しつかっていた。つまり下向のついでに、鎌倉へ下す宮方の一公卿を護送して来いと、命ぜられていたのだった。

「自分を試すのだな」

道誉はそう取った。神妙に、その役も奉じて行った。

笠置一味の捕虜は、後醍醐帝を流す前に、あらまし処分にふしていたのだが、なお、いろんな事情や嘆願の運動やらで、猶予されていた者もある。

ところが、俄然、ここへきて、その未決中だった公卿僧侶へも、一せいに刑の申しわたしが断行された。

――わずかな日のあいだに、武士の多くは河原で首切られ、僧や公卿は、伝馬の背やら箱輿で、続々、遠流になって行ったのだった。