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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens
ただ、ご加護を力に」
二人は、立ち別れた。
もう梢には初蝉が聞える。正成の具足姿に、青葉の木洩れ陽がチラチラして行く。
こんな武装で、彼が別当職を訪ねたのは、初めてなのだ。――それ以前から、摂津に来れば、ここに寝泊りもし、わけてこんどは、二十日も前から、天王寺村界隈に身をひそめていて、しばしば、ここに姿を見せたが、いつも布直垂の凡装で、
「どこの田舎武士」
と、人もかえりみぬ風采を常としていた。
だが、先ごろから彼の潜伏していた荒陵一帯の村々に、いつとはなく、諸方の野伏が寄って来て、自然な水溜りへ水が嵩むように、それが千人ちかくにもなって来ては、もはや六波羅密偵の眼も、紛らしようのない、隠然たる浮浪勢力と見られるに至って来た。
そこで、今はと、正成は公然、武装し、彼らにも武器を取らせたものだった。
六波羅にいわせれば、かかる人間どもは、ことごとく、不逞、浮浪の輩に過ぎないものだが、正成にとれば、みな、
一つ心の残党
だった。
笠置、赤坂の惨敗や、後醍醐の流離を見ながらも、なお初志を変えずに、地下の合言葉をつたえ聞いて、集まって来た者どもなのだ。
そして、ここに彼が、戦略上の一つの橋頭堡を目企むにいたったのも、要は、さきに四散した残党たちの結集を図るにあった。