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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(七)平次女難
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(七)平次女難 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 152,696 characters · 310 screens
二
「それはいいが、店では心配しているだろう」
平次はまだ、増屋の大騒ぎが目に見えるような気がするのです。
「親分――、横山町へは、あっしが一と走り行って来ますよ。二人を浜町へ連れて行っちゃどうでしょう」
月の隈の中から、長い長い影法師を曳いて現れたのは、銭形平次の子分、ガラッ八の八五郎の忠実な姿でした。
二
「父さん」
「…………」
「開けて下さいな、父さん」
「誰だい」
「私よ、父さん」
お富はそっと入口の戸の隙間に顔を当てました。
「どこの狐が化けて来やがったんだ、畜生」
たまり兼ねて起出した様子、――火打鉄の音や、荒々しい足音にも、憤々たる怒りはよく判ります。プーンと匂う、硫黄付け木の匂い。
「そんな事を言わないで、父さん」
お富はやるせない様子でした。幾度も幾度も――徳之助がそのまま逃げ出しでもするのを惧れるように、――振返って後ろを見るのです。
「お店から先刻番頭さんが来て、手前の不心得はみんな聞いてしまったぞ、馬鹿野郎。死ぬなら勝手に死ぬがいい、親にまで恥を掻かしやがって」
そう言いながらも、内からガラリと戸を開けました。灯を背負った五十年配の屈強な親仁、左官の彦兵衛といえば、仕事のうまいよりは、頑固一徹なので界隈に知られた顔です。