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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens
銭形平次捕物控
一
一
「親分、こいつは驚くぜ、――これで驚かなかった日にゃ、親分とは言わせねえ」
息せき切って駆けつけたガラッ八の八五郎、上がり框に両手を突いて、「物申し上ぐる型」に長い顔を振り仰ぐのでした。お行儀がよくなったせいではなく、息が切れて、しばらくは後が続かなかったせいでしょう。どもりが疳癪を起したように、一生懸命閾を引っ叩いております。
「何を騒ぐんだ、八」
銭形平次は秋の朝の光を浴びて、せっせと植木の世話をしていたのです。
「あわてちゃいけませんよ、親分」
「あわてているのはお前じゃないか、何をそんなに面喰らっているんだい」
平次は落着きはらって如露を沓脱の上へ置きました。
平明な朝の光の中に、平次の顔の穏やかさ、夜店物のケチな盆栽ばかり集めて、その規矩準縄にはまらぬ、勝手な発育を楽しむ平次の心境には、岡っ引らしさなどは微塵もありません。
「両国橋から首を吊ってブラ下がった奴があるんだ」
「なるほど、そいつは変っているな、――どうせ死ぬのに、場所の選り好みなどは贅沢のようだが、不思議に肥桶の中へ首を突っ込んで死ぬ奴はないものだな」
「親分、落着いていちゃいけませんよ」