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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens

Aozora Bunko

九

ただあの晩、岩根半蔵が家に居たのを知らなかったのだ。――」

平次は黙りこくってしまいました。いやな事を思い出した様子です。

「親分、あの娘じゃありませんよ、――あの娘なら、殺したら、殺したと名乗って出るはずじゃありませんか、金蔵破りとそれに加担した奴が知れたんですもの」

ガラッ八はやっきとなりました。

「誰の事を言ってるんだ」

と平次。

「親分は、門弥の妹のお雪を疑っているんでしょう」

「いや、違う――こんな事はないはずだが、人間の心は恐ろしい。あの火口と硫黄をつけた稽古矢を、飯倉か巴町の弓師に見せて来るがいい、――誰が誂えた矢か解るだろう。それから、近頃、どうしたことか、お頼を跡部満十郎が引取っているそうだから、それも捜るんだ――」

「え、親分、それはまたどうして――」

「なあに、女房が居なくなって娘達ばかりだから、跡部満十郎がお頼をひきとったのだろう。それに頼みがもう一つ」

平次は何か言いかけましたが、

「そいつは俺が当ってみよう。頼むぜ」

一人呑込んで飛出しました。

九

人間の心の恐ろしさを、この時ほど平次も覚らされたことはありません。

矢を誂えたのは意外にも跡部満十郎。