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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens
銭形平次捕物控
一
一
「八、目黒の兼吉親分が来ていなさるそうだ。ちょいと挨拶をして来るから、これで勘定を払っておいてくれ」
銭形の平次は、子分の八五郎に紙入を預けて、そのまま向うの離屋へ行ってしまいました。
目黒の栗飯屋、時分どきで、不動様詣りの客が相当立て込んでおります。
「姐さん、勘定だよ。何? 百二十文。酒が一本付いているぜ、それも承知か。廉いや、こりゃ」
ガラッ八は自分の懐みたいな顔をして、鷹揚に勘定をすると、若干か心付けを置いて、さて妻楊枝を取上げました。
ぬるい茶が一杯。
景色を見るんだって、資本をかけると何となく心持が違います。
「ちょいと、伺いますが、あの銭形の親分さんは?」
優しい声、耳に近々と囁くように訊かれて、ガラッ八は振り返りました。二十前後の大店の若女房といった女が、少し顔を赧らめて、尋常に小腰を屈めるのでした。
「親分は向うへ行ってるが、なんだい、用事てえのは?」
「あの、銭形の親分さんのところの、八五郎さんというのはあなたで――」
「よく知っているな、八五郎は俺だ」
「確かに八五郎親分さんで――」
「八五郎親分てえほどの貫禄じゃねえが、銭形の親分のところに居る八五郎なら俺に間違いはねえ。