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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens

Aozora Bunko

四

これだけ聴けば平次には大方見当がつきます。

四

平次の活動は電光石火の素早さでした。事件の匂いがする、飛出す、一挙に片付ける――これが日頃の平次の癖で、日が暮れようが、夜が更けようが、そんな事に頓着する平次ではなかったのです。

根岸へ行って、寺を一つ一つ叩き起すのは、あまり楽な仕事ではありませんでした。門前の花屋で済むのは花屋、それで解らないのは門番、門番の居ないのは、庫裏へ廻って、寺男を叩き起すのです。

心付けと、十手と、詫言と、脅かしと、硬軟いろいろに使いわけて、亥刻半(十一時)頃、廻って来たのは、御隠殿裏でした。

「谷中へ近いからこの辺かも知れない」

平次のそう言った見当は外れませんでした。西洞院の寺男が、少しばかりの心付けと、十手を見せられて、

「薄暗くなる頃、立派な御武家が見えました。私は新米でお名前は存じませんが、本堂で拝んで、それからお墓へ廻って、半刻ばかり経って、暗くなってからお帰りのようでございました」

「案内はしなかったのかい」

「いたそうと思いましたが、よく知っているからとおっしゃって、閼伽桶へ水だけ汲んで差上げました」

寺男は夕方の忙しさに不精した様子ですが、それにしても半刻あまり、薄寒い墓地に居たのは仔細がなければなりません。