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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens
ガラッ八の大きな鼻が、天井を仰いだまま、思い切りふくらみます。
「どこでそんな事を聴きやがったんだ」
「種を明かしゃ橋番所の老爺さ。とにかく、こいつは権現様御入府以来ですよ、親分」
「妙なところへ権現様なんか引合いに出すと、旦那方に叱られるぞ」
「両国まで、チョイと一と走りやっておくんなさい、親分」
ガラッ八がこう言うのも理由がありました。
東両国は石原の利助の縄張で、今では廃人同様の利助が、娘のお品に助けられながら、僅かに十手捕縄の威光を墜さずにいるのは、銭形平次の好意で、子分の八五郎を後見に付けておくからでした。
「手前が埒をあけなきゃ、お品さんに済むめえ」
「でも、親分、首っ縊りのブラ下がったのはちょうど橋の真ん中ですぜ。東風が吹けば死骸の裾が武蔵へ入るし、西風が吹けば鬢のほつれ毛が、下総へなびく」
「馬鹿野郎」
「へッへッ、そう来るのを待っていたんで」
ガラッ八が掌の凹みで、おでこを撫で上げるのも尤もでした。
馬鹿野郎をきっかけに、平次は立ち上がって、帯をキュッと締め直したのです。
「ヘエ、――煙草入」
「馬鹿だな」
ガラッ八はもう一つ小気味の良いのを喰らいました。