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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens
明日は江戸へ御帰りということじゃ。夕景先代の御墓へ詣られたのは、たぶん用人の石田清左衛門殿であろう。用人といっても、先々代は東照宮様御声掛り、直参に取立を断ったという石田帯刀様で、陪臣ながら大した家柄じゃ」
眉の白い老僧は、こんな事まで親切に話してくれます。
「御屋敷はどちらでしょう」
と平次。
「谷中じゃ。三崎町で聞けば判る」
平次はそこまで聞くと、老僧の話の腰を折るように立上がりました。
谷中まで一走り。
安倍丹之丞の屋敷はすぐ解りましたが、厳重に門が閉っていて、子刻近い刻限では入れようはありません。
「親分、諦めましょうか」
さんざん門を叩かせられた上、ガラッ八はとうとう悲鳴を挙げてしまいました。主人は留守、門番は横着に寝込んで、開けてくれそうもなかったのです。
「表から名乗りをあげていっちゃ、具合が悪いことかも知れないよ。――どうだい八、泥棒の真似をしてみる気はないか」
「ヘエ――、泥棒の真似?」
「塀を乗越えるだけさ、――人の命には代えられない」
「やり付けない仕事だから、うまく行きゃいいが」
「泥棒の真似なんかやり付けてたまるものか」
二人はそれでも忍び返しのないところを探して、大した苦労もなく塀を越してしまいました。