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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens
親仁は昔気質で、腕一本は惜しくないが、家の中の取締りがつかないから、縄付を出しても仕方がない、吹矢を飛ばした女を突き出せ――とこう申します。吹矢を飛ばした奴と言わずに女と言うのは、家内の冬に当てつけた言葉で、私ども夫婦は途方に暮れてしまいました。出来ることなら親仁の迷いを晴らして、家内を助けてやって下さいまし」
山の手の広い構え、土蔵と店の間を抜けて、母家へ廻る道々、又次郎は泣き出さんばかりの様子で、こう囁きます。
やがて奥へ通って、大主人の又左衛門に引合されましたが、これは思いの外元気で、床の上に起直って平次とガラッ八を迎えました。
「銭形の親分だそうで、よくお出で下さいました」
「とんだ災難でございましたな、どんな様子で?」
「なアに腕の一本くらいに驚く私じゃないが、やり口がいかにも憎い。刀か槍で向って来るならともかく、風呂場で煙責めにしておいて、毒を塗った吹矢を射るというのは、女の腐ったのがすることじゃありませんか」
暗に嫁のお冬と言わないばかり、無事な右手に握った煙管で、自棄に灰吹を叩きます。なるほど福島浪人というのは嘘でなかったでしょう。七十近い巌丈な身体に、新しい忿怒が火のごとく燃えて、物馴れた平次も少し扱い兼ねた様子です。