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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 139,230 characters · 280 screens

Aozora Bunko

お茂与の死顔にこびり付く表情が、雄弁にそれを語っているのでした。

「親分、誰です、下手人は?」

「…………」

「親分」

「お化けだよ」

「ヘエ――」

「善五郎の幽霊だな」

「そんな馬鹿な」

「いや本当だ。さあ帰ろうか八。お茂与は悪い女だ――お前は美しい女を皆んな善人だと思っているようだが、こんな悪い女は滅多にないよ。世話になった善五郎の首へ縄を掛けたのは、あのお茂与さ、――もっとも善五郎を殺したのはお茂与じゃない。が、昨夜の下手人は、善五郎を殺したのをお茂与と思い込んでやったんだ」

「さア判らねえ」

平次の言葉の意味は、八五郎にもよく判りません。

番頭も手代も倅の甲子太郎もおりました。朝の光の中に曝されたお茂与の浅ましい死骸を前に、平次は静かにつづけるのです。

「最初から順序を立てて話してやろう、いいか八」

「ヘエ――」

「主人の善五郎は武家の出だ。金は出来たが中気にあたった。昔自分が殺した有峰松次郎の兄の杉之助は同じ町内に住んでいる。いつ敵名乗をして来るか判らない。その上弟の敵を討った杉之助は世間への申し訳、故郷へ帰る名聞を立てるために、宗方善五郎の旧悪の数々を言い立てるに違いない。