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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
(五十九)
「一体を云えば、お前さん達の方が仇なんだよ。角川の大旦那を殺したのは誰だえ。お前の阿母さんやだろう。それだから、若旦那の方こそお前さん達を怨んでも可いのに、お前さんの方で反対に若旦那を怨むなんて、早く云えば外道の逆恨で、理屈が全然間違っているんだよ。ね、然うだろう。能く考えて御覧。」
再び考えろと云われて、重太郎は又考えた。いかに野育ちの彼でも多少の理屈は呑込めるのである。加之も是はお葉の説教である。復讐に凝固った彼の頭脳の氷も、愛の温味で少しく融け初めて来たらしい。
「そうかなあ。」と、彼は嘆息を吐いた。
「そうさ。解ったろう。」
重太郎は黙って又考えていた。表でも裏でも大勢のわやわや云う声が聞えた。
(五十九)
曩の日、椿の枝を折って別れてから、お葉は重太郎を憎んで居なかった。怨むまじき人を怨んだのは、彼の料見違いには相違ないが、人並ならぬ彼に対って深く之を責むるのは無理である。兎にかく市郎の身に恙なかったのは何よりの幸福であったと、お葉は安堵の胸を撫下すと同時に、我が眼前に雪を浴びて、狗児のように跼まっている重太郎を哀れに思った。
「何しろ、此方へお出でよ。