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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens

Aozora Bunko

海苔巻きもあるぞ。早くここへ来て御馳走になれ。おまえは鮓は嫌いか。

(太吉は首をのばしてそっと覗いたが、旅人を見ると又俄に小さくなる。重兵衛は客の手前もあり、わが子の意気地のないのが腹立たしくもあり、声を暴くして叱り付ける。)

重兵衛 やい、何をぐずぐずしているのだ。ここへ来い、ここへ来い。

太吉  (低い声で。)あい。

重兵衛 あいじゃあねえ。お客様がいるのに行儀の悪い奴だ。早く来い、この野郎……。(炉のそばにある枯枝を把って、太吉に叩き付ける。)

旅人  (あわてて遮る。)あ、あぶない。怪我でもさせると、いけない。

重兵衛 なに、云うことを肯かない時には、いつでも斯うして引っぱたくのです。野郎、まだ来ねえか。(又もや枯枝をふり上げる。)

(太吉も今は引込んでもいられず、恐る恐る這い出して来て、父のうしろに寄添うと、重兵衛は鮓の折を把って、その眼さきに突き付ける。)

重兵衛 どうだ。旨そうだろう。お客さまにお辞儀をして、どれでも好いのを喰べてみろ。

(太吉は父のうしろに隠れたままで答えず。)

旅人  (笑いながら。)早くおあがんなさい。

(その声を聞くや、太吉は又ふるえ上って、父の背中に獅噛み付く。