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さんごくし

三国志

吉川 英治

Read 三国志 (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 161,356 characters · 323 screens

Aozora Bunko

「おお、あの林の陰にかくれ去った。徐庶の影をへだてる林の憎さよ。ままになるならあの林の木々をみな伐り捨てたい! ……」と、声を放って泣いた。

いかに君臣の情の切なる溢れにせよ、あまりな愚痴をと思ったか、諸将は声を励まして、

「いつまで、詮なきお嘆きを。――いざいざ疾くお帰りあれ」と、促した。

そして六、七里ほど引っ返してきた頃である。後ろのほうから、

「おうーい。おういっ」と、呼ぶ声がする。

見れば、こはいかに、彼方から馬に鞭打って追いかけてくるのは、徐庶ではないか。徐庶が帰ってきたではないか。

(さては彼も、別れ切るに忍びず、ついに志を変えて戻ってきたか)

人々は、直感して、どよめき迎えた。

すると徐庶は、そこへ近づいてくるやいな、玄徳の鞍わきへ寄って、早口にこう告げた。

「夜来、心みだれて麻のごとく、つい、大事な一言をお告げしておくことを忘れました。――彼方、襄陽の街を西へへだつこと二十里、隆中という一村落があります。そこに一人の大賢人がいます。――君よ。いたずらなお嘆きをやめて、ぜひぜひこの人をお訪ねなさい。これこそ、徐庶がお別れの置き土産です」

云い終ると、徐庶はふたたび元の道へ、駒を急がせた。