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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

「何をしやがる」

「通るぜ、師匠が」

お由羅の生家、江戸の三田、四国町、大工藤左衛門の家の表の仕事場であった。広い板畳の上で、五六人の若い男が、無駄話をしていた。

「師匠」

常磐津富士春は、湯道具を抱えて、通りながら、声と一緒に、笑顔を向けて

「おやっ――」

立止まって

「お帰んなさいまし」

と、小藤次に挨拶をした。小藤次とはお由羅の兄で、妹が、斉興の妾となって、久光を生んでから、さらに取立てられて、岡田小藤次利武と、名乗っているのであった。

小藤次は、袴も、脇差も、奥へ捨てたまま、昔のように、大あぐらで

「入ったら――」

「おめかしをして」

富士春は、媚をなげて、素足の匂を残して行った。

「いい女だのう。第一に、鼻筋が蛙みたいに背中から通ってらあ」

「兄貴を、じっと見た眼はどうだ、おめかしをして――」

「おうおう、誰の仮声だ」

「師匠のよう」

「笑わせやがらあ、そんなのは、糞色といってな――」

「鳴く声、鵺に似たりけりって奴だ」

「俺、あの口元が好きだ。きりりと締まってよ」

「その代り、裾の方が開けっ放しだ。しかもよ、御倹約令の出るまでは、お前、内股まで白粉を塗ってさ」

「御倹約令といやあ、今に、清元常磐津習うべからずってことになるてえぜ」