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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

「いいや――」

益満が、こういって、膝へ手を置いて、名越を見た眼は、齢が上で、格が遥かに上の者までも、威圧するに十分なものであった。それが、町人姿になっても、明瞭と、現れていた。名越は

(又、一こね、こねるかな)

と、思って

「異論かの」

と、微笑した。そして、心の落ちつかんのを見せまいと、煙草入れを取上げた。

「過日、斉彬公の御前へ罷り出ました節、君より、天下の形勢に就いて、御言葉がござりました」

「わしも聞いた」

名越は、煙を、天井の方へ吹き出しながら

「それで――」

「その夜――いろいろと、思案仕りましたが、禁裏の御気配、京都へ集まっております浪人共の正論、引続く不作、窮民の増加、異国船の頻々たる来訪。又、オロシャの侵略――何んとなく、日本の四方、日本の上下に、不穏の気が充満して参っておりまする」

名越は

(そろそろ難かしい事を云い出しおったぞ。一を聞くと、十に拡げるのが、名人じゃ、この男は――)

と、思ったが、そうしたことは、斉彬公から聞いてもいて、朧げながら、自分も感じているので

「そう」

と、頷いた。

「それを処理する幕府として――人、策共に皆無でござりまする。