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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

「何?」

「夜、歩くと咎めるという布令は、いつ頃から出た」

「何を申す。軽輩の分際で、布令が無くとも、役の表によって調べる。姓名を申せ」

「役の表?――何役じゃ。誰じゃ?」

「名乗らぬか」

一人が、正面から、大久保を睨みつけた。提灯を持った小者が、西郷が、側で笑っているのを見て

「姓名は?」

と、聞いた。

「はははは」

大久保を睨んでいた侍が、その笑い声を聞いて、西郷を、ちらっと、睨んだが

「何が可笑しい」

「あはははは」

侍は、大久保に

「名乗らんか」

「その邸は、横目付和田殿の邸でござろう」

「そうじゃ」

「和田殿に、横目付が、いつから、奉行の下職を請合いなされたかと、聞いて参れ。その返事によって名乗ろう。役目の表などと、貴公、奉行所の者か?」

「何?」

「役目が相違しておろう。それとも、企むところがあっての、偽りか? まず、貴公の姓名を聞こう。その上にて、不審があれば、奉行所へ同道致そう」

侍は、黙った。

「一蔵、もうええ」

と、西郷がいった。そして

「女郎買いの戻りじゃで、内分に、内分に」

と、いって、歩き出した。侍は、二人を、睨みつけたまま、じっと、立っていた。

祇園橋を渡って、磯浜の方へ――右手は低い土堤であった。