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めいじせそうひゃくわ
明治世相百話
山本 笑月
Read 明治世相百話 (めいじせそうひゃくわ) by 山本 笑月 (やまもとしょうげつ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 128,862 characters · 251 screens
江戸前名残りの蒲焼
江戸前名残りの蒲焼
どろ臭いのに馴れた東京人
惜しいのは江戸前の鰻の味、今は養魚場育ちや遠国仕入れ、種も違えば味も変る。東京に限るといわれた自慢の蒲焼も、その江戸前の香味は失せて、どろ臭いのに慣れてみれば、本格の老舗も、そこらの新店も、かみ分けるほどの好者は寥々、随って場違いの代物でも苦情なしに召上がるので繁昌はなにより。
東京居回りの川筋に鰻が絶えて近県の輸入ものが千住へどしどし、それでも明治の中頃までは大川に生簀があって、沼育ちのあくも抜け、江戸前でとおっていたが、三十年頃から水質の変化に大川の生簀も引き揚げ、以後は水道利用の水舟囲い、そのうえ遠国の場違いが幅を利かせて現代式ウナ丼の流行。そこで江戸前時代の鰻屋といえば、たいていは紺の暖簾に「蒲焼」の行灯、竹格子の板場の前を通って奥の小座敷、団扇の音と共に早くもぷんと鼻をうつ好い匂い。
蒲焼のほかに鯰のすっぽん煮ぐらいでなにも出来ない。客は鰻の焼けるまで香の物で一杯、気長に待つ。随って鰻屋の香の物は格別念入り、酒ももちろん生一本、つぎはタレだ。代々の秘法で一子相伝、飯米から茶漬の茶まで気をつけるのが本格。