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ぜにがたへいじとりものひかえ
橋の上の女 ――銭形平次傑作選2
野村 胡堂
Read 橋の上の女 ――銭形平次傑作選2 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,573 characters · 178 screens
「引き潮が亥刻(十時)時分、水が浅いと、水門から舟が出ませんから、伜が出たのは、真夜中過ぎになります」
主人の徳兵衛はそう言うのです。こうして下男元吉の疑いは、綺麗に拭い去られたわけです。
その元吉というのは、喰えそうもない三十男で、伜菊次郎とは一番よく馬が合いそうでしたが、時間の喰い違いが大きいので、まったく問題になりません。
「さて、雲をつかむようなことになったぜ、八」
平次が少し持て余すと、
「まだありますよ、親分、この家の二番目息子、徳三郎に当って見ちゃどうです、兄の菊次郎と違って、堅い一方の評判の良い男ですが、――先刻まだ店にいたようですが――」
八五郎は平次を誘って店へ引返しました。暗い廊下を曲って、納戸の前へ出ると、
「――――」
八五郎はソッと平次の袖を引くのです。
「――――」
平次も妙にギョッとした心持で立ち竦みました。若い男と女が、納戸の後ろで、何やら密々と語り合っているではありませんか。しかも、二人とも、涙を流しているのです。
「あ、親分さん」
立ち竦んだのは、女の方――菊次郎の許嫁のお夏でした。男の方は軽く一礼して、身をかわすように、隣の部屋にヒラリと避けてしまいます。