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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens
「どうだ三郎。そっちの景気は」
「わるくはないぞ。が、おぬしの舁かせている古輿の内は何者だ」
「皇子だよ」
「え」
「瓶ノ原で捕まえた皇子宗良と四条ノ何とやらいう公卿さ。これでまあ俺も、鎌倉殿の軍功帳に一ト筆書かれる身となったわえ。……ところで、きさまも何か一ト網かけた様子じゃねえか」
「おおさ。軍功ならこっちが上だぜ。深栖三郎が捕えたのは、もったいなくも、時のみかどだ」
「笑わすなよ、三郎」
蔵太は、相手の負け惜しみと受けて、肩をゆすッた。
「先ごろ叡山の上でも、偽天子があったそうだ。いくら笠置が落ちたにしろ、天皇が二人や三人ばかし連れて、こんな所をうろうろなさるはずはあンめい」
「嘘かほんとか、おい蔵太、あの古輿をこっちへ呼んで、おれの捕ったそこのお人と、つき合わせてみてくれい」
「よし、合点だ」
蔵太はすぐ、後ろに見える輿の者をさしまねいた。
古輿はおうと応えて揺らいで来た。と思うまの出来事だった。轅を担っていた前の兵が、とつぜん地へ膝を折って俯ッ伏し、がたっと、地響きやら物音がしたせつなに、輿の内から暴れ出た皇子宗良の姿が、
「あっ、お父ぎみ」
と一ト声、それは辺りの肺腑をも刺すような劈きのまに、走り寄って、後醍醐のお胸へ、しがみついておられた。