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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens
も、久しく旗箱の中に朽ちさせていたものだった。
いま。
その古旗もぴらッと燃えた。
一炬と見えた瞬間に灰となッて吹き飛んだ。
「さ、行こう」
それまでを見終ると、正成はすぐ駒首をめぐらして、立ち去った。そして一族もろとも赤坂の城へ籠った。
砦に立つと。
遠くは摂河泉の山野から、石川、東条川などの村落も近々見わたせる。西、東、北の三方は高地の展望を占め、南の高塚山や桐山の方から入ると、ただの狭い一平地の平城にすぎないのだった。正成たちは、その道から入ったのである。
「正季。拝領の旗を掲げよ」
正成の命に、この日初めて、赤坂の城頭たかく、世に見馴れない旗がかかげられた。――つい先ごろ、中務ノ宮尊良と四条隆資が、二度のみ使としてこの地へ下って来たとき、特に下賜された菊水紋の旗だった。
そも、菊水の紋は、たれの考案になったものか。
流水は、正成の産土の地、水分を象徴しており、半花の菊を泛かべた図は、天皇軍をあらわしている。
おそらくは、藤房あたりか。絵心ある公卿のたれかの図案であろう。
が。それはそれとし、この菊水紋の旗を、尊良親王に付して、赤坂城へ下賜された叡慮のうちには図案以上な、機略の妙がうかがわれる。