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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens

Aozora Bunko

「どうだ、ちっとは、きれいになったか」

「ちっとどころか、おきれいに相なりました。お髯を落せば、明けてまだ二十八の花の若殿」

「十郎。宿所へおちついたら、賞め賃には、うんと餅を食わすぞ。そうだ、坊へ剃刀をお返しして来い」

彼も去り、高氏も床几を立って、ふと掖門の梅の下に立ったときである。やっと六波羅の使いが見えたらしく、彼方から兵に案内されて来る者があった。

使いの者は、六波羅寄合の武田伊豆であった。探題仲時に代って、高氏の僻地の長陣にたいして、厚く、ねぎらいの辞を述べたあとで、

「ご宿所の先は、庁議でここへとの指定です。したが、ちと御不便な地。ご辛抱ねがわしゅう存じまする」

と、一葉の“宿所割”を披いて、高氏へ手渡した。

それで見ると。

洛内繁華の地や、目ぼしい館とみられる所は、あらかたもう諸大将の営に割当てずみであるらしい。そして足利一勢に宛てがわれた宿所の地は、やっと捜したような京も辰巳(東南)端れの月輪だった。

「お。この印の所か、伊豆」

「さようです。六波羅の南、大和大路からやや山寄りの……。そこに昔からの山本左大臣の山荘がありますので、ひとまずそこへ」