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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens
――吉左右いかに。
と、待ちわびておられた天皇と供奉の面々が、その人数を見られたのは、どう早くても、その日、二十五日の午ちかくではなかったろうか。
そこは宇治の五ヶ庄の森蔭だった。みかどは、破れ輿の内に、背をもたせかけて、夜来、おつかれらしく、うつらうつらしておわしたが、
「オオ参ったるか聖尋」
と、彼の姿を見そなわすや、なかなかなお元気で、こう御諚であった。
「さっそくの迎え、うれしいぞ。……笑うべし、かねがねの細やかなる謀も、いすかの嘴と食いちがい、かくの如く、俄か落人とはなって、昨夜、ひそかに大内を脱け出てまいった。たのむぞよ」
「……はっ」
聖尋は、唯々、平伏したその体におこたえを見せたのみで、ことばも何も現わしえない。
御脱走は、やはりほんとだったのか……と今さら身ぶるいが出るばかりだった。
この聖尋は、鷹司基忠の子で、後醍醐とは、皇太子時代からの、友ではあり、以後の同志の一人でもあった。
さきに囚われて、硫黄島流しとなった、小野ノ文観とも親交がある。――すべて、後醍醐という不世出の恒星をめぐる一群の衛星が早くからあって、彼もまた、その連環中の一衛星であった者といっていい。