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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens
「さいぜんから、お待ちでおられまする」
と、すぐ方丈へ誘った。
内にいたのは、年ごろ三十四、五の、眉秀でた一人の法華行者であった。
大覚ノ宮と、松田父子があがめているのはこの人か。
からだの骨ぐみもよいが、唇は意志の強さをしめし、どこか、後醍醐のご風貌に似かようていなくもない。
「待っていた。ずっと入れ」
何と、その声がらまでが、後醍醐にそっくりだった。
疑問から先にする。
大覚ノ宮
とは、いったい皇系のうちの誰なのか。
かりに世上へ問うても、六波羅でさえ「さような宮はおられぬ」と、否定するだろう。後醍醐の皇子にも、そんな御名の皇子はない。
だいいち、皇子にしては、後醍醐とのお年が近すぎる。
しかし、この大覚ノ宮は、後醍醐の皇子のお一人たるには違いなかった。ただし俗にいう、養子なのである。
では、ご実父は、たれかといえば、ほかならぬ亡き後宇多の院だった。――院が上皇のころ、遊義門院子との仲にもうけられたお子なのだ。
その遊義門院は、よほどな美人であったらしい。――おん父は持明院統の天皇後深草であり、つまり皇女でおわしたが――後宇多は、大覚寺統のお立場もわすれ、熱烈な想いをその君へ懸けたとみられる。