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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens

Aozora Bunko

の“久米のさら山の巻”に見えるのはこの地などと、かぎりもない。

そしてその道順にも多少の異同はあるが、だいたい江見、湯ノ郷を経て、勝間田附近をすぎ、やがて津山の院ノ庄へと、泊りをかさねたものと思われる。

ところが、その日は。

山国には特有なものだが、気まぐれな照り降り雨に出会って、とかく道は捗らなかった。

馬さえ山坂ではまま辷る。

まして輿を担う輿丁たちの足もとは容易でなかった。半里か一里ごとには肩代りしてゆくのだが、道はぬかるむばかりだし、山雨は輿の御簾を打ッて、帝のお膝のあたりも冷たく濡れてきたにちがいない。

「おそれながら」

道誉は時々、その騎馬を、輦輿の横へ並べて来ては、馬上のまま輿の内へ奏していた。

「上には、辛抱などと申す俗語の意味は、かつて玉体にご存じなかったことでしょうが、今日のみは、それを仰ぎ奉ります。なにとぞ、あと半日のお怺えを」

そしてまた、

「おそくも、今日明日には、院ノ庄へ行き着くはず。――先へ家来を走らせて、御着の上は、ゆるゆるお休みを賜るようにしてありまする。何はあれ、院ノ庄までのご辛抱にござりますれば」

と、これは廉子の輿へも言ったのである。