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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens

Aozora Bunko

「そうか」

忠顕の顔が、上で受けて。

「それはさだめしよい御気散じになるであろ。道誉、そちの優しい計らいは、何かと、御叡感であらせられるぞ」

「いや、さまでには行き届きません。しかし隠岐への旅も、ようやく半途、明日からはまた、非情な旅路です。どうぞ今日ばかりは心ゆくまで、一日の御休息を」

まもなく、中坪の声は、散って行った。

障子の内の、帝の灸治もほどなく終っている。

竹ノ子笠の怪は、廉子も聞いていたにちがいないが、帝のお耳には入れまいとするように、彼女は、中坪でのその人声をしいて紛らしていた風だった。

はや倉院の近くの馬場では、その日の催し事の太鼓がとどろに鳴っていた。――俄造りの桟敷に、帝以下、三人の妃と、忠顕、行房らの姿が揃うころには、馬場のまわりには、山国の群衆が、物珍らに、無遠慮な声など放って、わいわいと見物していた。

むりもない。

こんな山国の奥で、まざと、天皇や妃たちのお顔を見るなどは、彼らにすれば夢のようなことだったろう。しかも、どんな事情で輦輿がこんな所を越えて行くのやらも、また、帝の流離と聞かされても、みかどが流されるとはと、ただ首を傾げるだけな彼らだった。