Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens

Aozora Bunko

さであった。

「やっ、貝の音だ。丘の愛染堂で、貝の音がする」

「それっ、大江へ行け。ご合図だぞ」

その夕は、人間どものうごきに、夕鴉も声がなかった。不気味なほど赤い雲の下を、素頭にただ鉢巻したのや、鉢金と脛当だけで、胴も着けてない男や、草鞋なしの足に、ただ縄を巻いて、長巻一ツを持って躍り出るのやら、とにかく雑多な武装をした者どもが、

「陣触れだぞ」

「おういっ、大江へ出ろ」

と、触れ合いながら、そこかしこの、散所部落の路地や辻から駈け出して行った。

かれらの内には、宮方の残党とみずから称するしかるべき侍もいたが、多くは、食うために、さしずめの職のつもりで、この一ヵ月ほどの間に糾合された者だった。だからもとより序列もない。ただかねて言い渡されていた貝合図の下に駈けていただけである。

しかし、愛染堂の上に見える菊水の旗は、ゆるやかに今、夕日ノ岡を西へ降って行き、一心寺や住吉街道の方面にもまた、幾旗ものおなじ旗が見られた。そして、それらは旗鼓整然と、時もひとつに、大江の一点へ流れていた。

天王寺未来記

五月十七日の未明。

六波羅の軍勢四千と称するものが、尼ヶ崎、神崎、柱松のあたりに着き、午ごろにはもう大江の渡辺橋(現今の天満橋辺)の北岸にはチラチラ偵察の影などみせていた。