Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens

Aozora Bunko

「もしっ、そこな女性」

「もしや、藤夜叉さまではありませんか」

二人の男は、手をあげて、先へ行くものを呼びとめた。

彼女は答えない。ちらと振り向いたふうではあったが、彼女の足が一ばい早くなったのはそれからだった。むしろ逃げるといった姿にちかい。

男ふたりも駈け出した。

侍だが、ちゃんとした侍ではない。街道でよく見かける蠅みたいな浪人である。

でなければ放免(密偵)か。

いやいや、藤夜叉には、そんな見わけを、とつこうつ抱いているゆとりはない。とつぜん小走りに走って、関ノ清水の横道へ隠れこんだ。

「あっ、逃げた」

唖然としたように、後ろの浪人二人は、腕拱みをくんで、立ちどまった。

「はて、やっぱり人違いだったのかな?」

「でも、逃げるのはおかしいじゃないか」

「いや、こんな風態のわれわれだ。あとを尾けられたら、旅の女など、不気味に思うのはあたりまえだよ」

と、一人は笑う。

「それもそうか」と、是認しかけたが、また、一方はその言をひるがえした。

「何、どうあっても、おれには藤夜叉さまに見えた。もう一ぺん追って行って、たしかめて見ようじゃないか」

「だが、藤夜叉さまに、痣はないぞ」