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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(七)平次女難

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(七)平次女難 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 152,696 characters · 310 screens

Aozora Bunko

「どこかその辺に居るだろうよ。馬も牛も通る場所じゃなし、それに、外はまだ薄明りがあるよ。さアその盃をあけるがよい」

源吉は銚子を取上げて、自分の胸のあたりに匂う女の額をのぞきました。

「でも、こんなに遅くまで外に居たことなんかないんですもの」

「心配することはないよ。子供は正直だ、暗くなれば帰って来るに決っているさ」

「そうでしょうか、――」

しきりにこみ上げて来る不安と憂鬱に、お角は思わず居ずまいを直しました。膝からともすれば襦袢がハミ出しますが、酣酔が水をブッかけられたように醒めて、後から後から引っきりなしに身震いが襲います。

ちょうどその時、幸三郎は、川岸っぷちを、フラフラと歩いておりました。子供心にも、源吉に白い眼で睨まれて、母親に床へ追いやられるのがイヤだったのでしょう、ツイ敷居を跨ぎそびれた心持で、人通りもない川端を、甚内橋の上手の方へ、ヨチヨチと独り歩きをしていたのでした。

フト、四つの児にも不安の直感がありました。どうやら赤いものが、サッと襲って来たのです。

「あッ」

と言う間もありませんでした。宵闇の中を、通り魔のように襲いかかったものが、幸三郎の小さい身体を、ドシンと力任せに突き飛ばしたのです。