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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(七)平次女難
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(七)平次女難 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 152,696 characters · 310 screens
子供の身体は毬のように宙を飛んで、甚内橋上手十間ばかりの川の中へ――。
それは実に一瞬の出来事で、誰も見た者もありません。
いや、たった一人、川の向う岸、丸屋の裏木戸をあけて、ゴミを捨てに出たお越が、夕闇の中に、ただならぬ悲鳴と、川に突飛ばされた子供の姿を宵闇の中に見たというのです。
お越は咄嗟の間に石垣を駆け降りて、そこに繋いだ小舟に飛乗り、棹を突っ立てて、浮きつ沈みつする子供に近づき、危ういところで引上げました。
「誰か来て下さいよ」
思わず口から出たお越の叫び声を聞付けて、三人五人と岸へ立ちました。近所の家からは、手燭や提灯を持って飛出す者もある騒ぎです。その灯の中へ救い上げた子供をつれて来ると、
「おや? お師匠のところの幸三郎じゃないか」
多勢の顔には、驚きと非難と、そしてほのかな嘲笑が浮んで来ます。この時、狭い川を隔てて猿屋町のお角の家からは、三味線の音につれて、艶かしい歌が漏れていたのです。
幸三郎が、お越始め町内の衆の介抱で、漸く息を吹返した頃、お角は漸く事の始末を聞いて駆け付けました。
「坊や、お前はまア何だってあんな場所に居たんだい、――お母さんが、先刻から一生懸命捜していたじゃないか」