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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(七)平次女難

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(七)平次女難 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 152,696 characters · 310 screens

Aozora Bunko

「太え阿魔だ。神妙にせい」

ガラッ八の手の中に、一と握りになったのは、見る影もない女、あの下女のお越だったのです。

「八、油断するなッ」

平次が叫ぶ間もありません、お越はガラッ八の油断を見すまして、その手をパッと払いました。たじろぐ隙に擦り抜けると、群衆を縫って、バラバラと母屋の二階へ――。

「寄るな寄るなッ」

お越は絹を裂くような叱陀とともに、二階の奥の一と間、有明の光のほのかに隠れる障子をパッと、蹴開けたのです。

「旦那様、お怨み申します」

「あれッ」

紅を乱して、花嫁のお楽は飛出しました。それを追うのは、いつ、どこで手に入れたか、出刃庖丁を振りかざしたお越。

庭も家の中も、ただ人間が渦を巻く大混乱です。

「お越ッ、執念が過ぎるぞッ」

平次の叱咤とともに、得意の投げ銭が夜風を剪りました。

「あッ」

肘を打たれて、思わず庖丁を取落したお越、次の瞬間には、ガラッ八の我武者羅な膝の下に組敷かれておりました。

「旦那様、お怨み申しますよ、旦那様」

きりきりと縛り上げられながら、お越は、哀れな顔をあげて、二階を睨み上げながら、忿怒の声を歇めなかったのです。

「八、早く、猿轡をッ」