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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens
「そいつは大変だ。八兄哥行ってみるかい」
兼吉と八五郎は宙を飛びました。岩屋の弁天前を通って、龍泉寺の門前、この辺は昔の方が繁昌したところで、近江屋も片手間ながら場所柄だけの商売はあったわけです。
店の内外はゴッタ返す騒ぎ、それをかきわけて入ると、奥は思いの外森として、主人七兵衛の死体には、若い女房のお峯と奉公人の釜吉が付いているだけ――。
「おや」
もう一つ驚いたことは、七兵衛という年寄りくさい名を持っているのに、死んだ主人というのは、精々二十五六、ちょっと好い男ですが、死体は二た眼とは見られない虐たらしさです。
「あッ、お前さんは」
八五郎はもう一つ度胆を抜かれました。死体の側に居る女房のお峯というのは、ツイ二日前に、同じ目黒の栗飯屋で、親分の平次へ――と言って、謎の結び文を渡した、あの美しい女だったのです。
「…………」
お峯の訴える眼付き――邪念などは微塵もありそうのない、大きい悲しみと困惑とに悩まされた眼付き――を見ると、八五郎もそれを言い出す気にもなりません。
「これは、親分様方、――御苦労様でございます」
下男とも、小使いとも、庭掃きとも、一人で兼ねている釜吉は、五十男らしい実体さで挨拶しました。