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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens

Aozora Bunko

紛れるともなく経った、ある日のこと、平次の家へ鉄砲玉のように飛込んで来たガラッ八。

「親分、大変ッ」

「何だ、ガラッ八か。相変わらず騒々しいね」

「落着いていちゃいけねえ、田代屋の人間が鏖殺にされたんですぜ」

「何だと、八?」

銭形の平次も驚きました。あわて者のガラッ八の言う事でも鏖殺は穏やかじゃありません。

「それッ」

と神田から水道端まで、一足飛びにスッ飛んで行くと、なるほど田代屋は表の大戸を締めて、中は煮えくり返るような騒ぎです。幸いガラッ八が聞き齧った、鏖殺の噂にはおまけがありましたが、一家全部何を食ってか恐ろしい中毒で、いずれも虫の息の有様、中でも一番先に腹痛を起した小僧の三吉は、平次が駆けつけた時はもう息の根が絶えておりました。

年は取っても、剛気な又左衛門は、一番気が強く、これも少食のお蔭で助かった嫁のお冬と一緒に、家族やら店の者を介抱しておりますが、日頃から丈夫でない養い娘のお秋は、一番ひどくやられたらしく、藍のような顔をして悶え苦しんでおります。

町名主から五人組の者も駆けつけ、医者も三人まで呼びましたが、何分、病人が多いのと、急のことで手が廻りません。