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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens

Aozora Bunko

広いところへ出さえすれば働きは自由自在、こんな捕物陣ぐらいは、一瞬にして踏み潰せると思ったのでしょう。

「岩根半蔵、逃げる気か」

正面へ立塞がったのは銭形平次でした。この時平次は二十八歳、生れながらの精気五体に充ち充ちて、非凡の使い手岩根半蔵の前に莞爾としておくれる色もありません。

「平次か、――無駄だ、――俺はその方などの手におえる人間ではない」

りゅうと白刃が真昼の陽を剪って、銭形平次を鼻であしらいます。

「御金蔵破り、福島嘉平太殺し、観念せい」

平次も一歩も退きません。

「何? 御金蔵破りは判っているが、福島嘉平太殺しは俺の知ったことでないぞ」

「神妙にせいッ」

「磔刑も梟首も覚悟の上だが、覚えのない罪までは背負わぬぞ、――とにかく、今はまだ縛られたくない。あばよ」

パッと飛ぶのを、平次の十手は後ろからむんずとその肩を押えました。

「えッ、命知らず奴ッ」

振り返った一文字の切り払い、平次はサッと飛退くと、十手は左手に、右手は早くも懐をさぐって得意の投げ銭。

「己れッ」

一つは振りかぶった拳を叩かれ、一つは眼の下を、一つは鼻の上をしたたかにやられて、岩根半蔵さすがにたじろぎました。