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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 143,455 characters · 290 screens

Aozora Bunko

「…………」

吉五郎は黙って首を振りながら、金太の顔を見上げました。

「この小刀を知らないとは言うまいな」

金太はもう一度血染の小刀を出して、吉の焼印を上に、吉五郎の鼻先に突き付けました。

「あっしのですよ。どうしてこんなところに?――」

吉五郎はゴクリと固唾を呑みます。

「どこに置いてあったんだ」

平次は静かな調子でこう答えを導きました。

「そいつは、有馬屋に置いてある道具箱の中にあった小刀ですよ」

「それに間違いはないな」

「間違いなんかあるもんですか、職人は自分の道具を忘れるような事はありません」

「いい職人なら、人を殺しても、道具を捨てて行くような事はあるまいな」

静かに言う平次の顔を、吉五郎は凝と見詰めております。

「その通りですよ、親分」

「ところで、有馬屋ではどこの普請をしているんだ」

「あっちを直せ、こっちを直せと、二た月も前から入りっきりでさ、いちいち道具箱を持って歩くのも面倒臭いから、預けっ放しですよ」

「何か有馬屋に気に入らない事でもあるのかい」

平次は早くも、吉五郎の語気の間から、押え切れない憤懣を観て取ったのです。

「手間を払わずに半歳も一年もこき使われちゃ、笑ってばかりもいられないでしょう」